監督は今日も来ない

映画の撮影が始まって3日目。監督は今日も来ない。これまでは何とかつなぎのシーンを撮ってしのいできたがもう限界だ。今日は主役の重要なシーンを撮らなければ2週間撮影が止まってしまう。しかし電話をしてもつかまらない。一体どこに行っちまったんだ。しょうがない自分がやるしかない。幸い出演者から文句もなく、監督抜きで最後まで作っちゃえ、との声が出る雰囲気だ。重要なシーンの撮影が始まってチェックした。どうだろう。監督ならどうするだろうという考えが混じる。自分では良いかなと思うけど監督だったらという仮定を消せない。しかしそれを思いすぎるといつ迄たってもOKが出せないという事になってしまう。監督だったらOK出してるよというのが逆にプレッシャーになってしまう。結局代替え何て無理なんだ。自分で良いと思ったものはOKで自分でダメなものはダメという平凡な結論に落ち着く。そういう結論が纏まったとき、携帯の着信が鳴り明日も来れないと言う。一体この映画はどうなっちまうんだ。もう知らん。一体誰の作品だが知らんが、監督の顔を泥を塗ろうがどうなろうが知ったこっちゃないと決めた。古参のカメラが次のシーンの準備をしながら口笛をふいた。