トの構築とその自爆

昨日私がひどい下痢に襲われたのは、昨日の波動の影響とか、私を憎む誰かの呪いとかがウイルスの侵入に加えて働いていたのだ。これに対して現代科学は、それは真っ赤な嘘だということはできない。波動や私の敵から私に何の物理作用も伝播していないということはいえる。だがいかなる非物理的作用も働いていない、ということを物理的に証明することは論理的に不可能なのだ。またそういうオカルト作用がなくともウイルスが侵入すれば私はまず下痢に襲われる、これすら立証できない。そのときは常に何らかのオカルト作用が共働しているのだ、といえるからだ。

現代科学はうんざりして、どうぞご勝手に、こちらは物理作用だけでやっていきますから、と置いてきぼりしてくのである。だからやっていけない人、それもひどくやっていけない人が呪力や魔力を進んで招きいれるのはまことに自然なのだ。ミクロの世界と、不透明テクスチャに遮られた内部の観察を阻まれた大まかな世界観が鬼神乱神、オカルト、妖精で賑わうのは当然なのだ。そしてそこでは山川草木すべてが生きている。「物」は現代物理学が描くような死物ではなく「生き物」なのだ。この生き物にあふれた世界で人はまたそれぞれ平凡な生き物、苦しい生活を送り、病気や死に絶えずさらされている短命な生き物でしかない。しかしこのことは自我対死物世界といった対立は生じない。自分と天地の間に距離がない。自分は死物的肉体と生きた心の合成物ではなく、いわば全身で生きているのだから、世界は自分の皮膚にくっ付いている。

この大まかな世界観がその後近代科学に基づくミクロ的世界観によって駆逐され、現代の科学文明に繋がっている、これが現代の常識である。しかしこの常識こそ今一度見直されなければならない。それがまさに現代文明の最も基本的な課題なのだ。