「レーダーホーゼン」の感想

恨みや悔しさというのはその時を過ぎれば忘れてしまうように思うが、その受けた思いは決して忘れ去られず心の奥にしまい込まれているものなのだろう。それが何かの拍子にヒョンと出る。この場合はドイツへの旅行がきっかけになり、英語が出来る事と妹が住んでいたという事もあり堂々と現地のドイツ人と英語でやり取りしながら旅行を楽しんでいる自分を発見する。ここまででも今まで我慢して来た夫との生活は何だったのだろうという思いが募っていたのだろう。


それを更に決定的にしたのが夫へのお土産だった。夫から頼まれたお土産としてレーダーホーゼンを買い求めるのだが、そこでは本人が直に来て寸法を採らせてくれないと売らないという昔気質の店だった。そこで交渉して本人と近い体型の人間を見つけて来てその人に売るという形にしてもらい何とか売ってもらう事になる。彼女は直に似た体型の人を見つけて来て強引に店まで連れて来てしまうのだ。何という行動力。詳しい事情は店の人から説明してもらった。そこまでしてまたまた疑問が生じたのではなかろうか。自分はドイツを思う存分楽しんでいたのにドイツまできて頑固な店に夫の為に苦労させられる。見ればその連れて来た体型そっくりな身代わりのドイツ人がますます夫に見えて来て憎しみが募って来る。そして自分が夫を嫌っている事を確信してしまったのだった。多分。
取り返しのつかない事は人が死ななくてもその手前に幾らでもあると言うべきか。