「『ノクターン』について」

これは果たしてSFと言えるだろうか。これまでもSFらしくないSFは沢山出てきたがやはりファンタジーと一線を画すのは科学的裏付けの趣向が施されていたからだろう。なのにこの本では科学の敗退を描いているのだから。科学の発展期に大いに語られた夢から様々な弊害を経てやがて起こる災厄、そして終末期。そこではスピリチュアルが主役に交替した未来が語られる。それでもこれはSFと呼べるのだろうか。それは今まで見え隠れしていたスピリチュアルな実相が一気に花開き華麗な展開を見せる場面は見事というしかない。そこでは飛躍した認識が現実を生成させる新しい世界の幕開けである。ここにおいて人間はついに自由な思考を手に入れたのである。あらゆる事が可能になってしまう世界。もはやそこでは人間は地上に留まる理由を知らない。こうして人間は地球を離れ宇宙に飛び出して行ったのである。