80年前か

「一九二八年三月十五日」 - 白樺文学館 多喜二ライブラリー [TAKIJI LIBRARY]

 「俺は泥棒ですよ、ハイ。」「ここの署長は剣難死亡の相あり――骨相家。」「火事、火事、火事、火、火。(これが未来派のような字体で。)」「不良青年とは、もっとも人生を真剣に渡る人のことでなくして何んぞや。呵々(かか)。」「社会主義者よ、何んとかしてくれ。」「お前が社会主義者になれ。」
 男と女の生殖器を向い合わせて書いてある下に「人生の悲喜劇は一本に始って、一本に終るか。鳴呼(ああ)。」
 「私は飯が食えないんです。」「署長よ。御身の令嬢には有名な虫が喰ッついている。」「何んでえ、こったらところ。誰がおっかながるものか。」「労働者よ、強くなれ。」「ここに入ってくるあらゆる人に告ぐ。落書はみっともないから止しにしよう。」「糞でも喰え。」「不当にも自由を束縛されたものにとって、落書は唯だ一つののびのびと解放された楽天地だ。ここに入ってくるあらゆる人に告ぐ、大いに落書をし給え。」「労働者がこの頃生意気になりました。」「この野郎、もう一度いってみろ、たたき殺してやるぞ。労働者。」「巡査さん、山田町の吉田キヨという人妻は、男を三人持っていて、サック持参で一日置きに廻って歩いてるそうだ。探査を望む。」「お前もその一人か。」「妻と子あり、飢えている。俺はこの社会を憎む。」「ウン、大いに憎め。」「働け。」「働け? 働いて楽になる世の中だか考えてからいえ、馬鹿野郎。」「社会主義万歳。」……。